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シャーナーメ:10.ロスタムとその馬、ラクシュ

シャーナーメの英雄、ロスタムがパートナーとなる馬ラクシュをみつけるお話です。
戦士とその馬、というのは、バットマンとバットモービル、関羽と赤兎馬、ラインハルトとグリュンヒルデ(銀英伝)、(乗り物じゃないけど)ルパン三世とワルサーP38、のように、一心同体の間柄のようです。
通常の馬の寿命はともかく、このラクシュは、英雄ロスタムの神話的に長い生涯をずっとともにします。
ロスタムが投げ縄でラクシュをつかまえるこの場面はとても有名なシーンで、いくつかの写本でも挿絵が描かれています。
ラクシュの模様、「サフランの地に薔薇を散らしたような」というのは、金茶に赤、のような色合いでしょうか。(花びら?葉? 葉っぱだったら、薔薇でなくてもいいような・・?それくらいの大きさということ?)
ラクシュの体格描写を見ると、騎馬民族(といっていいのかな)が何をもっていい馬としていたのかがうっすら分かるような気がします。日本でTVとかで目にできるのはサラブレッドくらいですが、闘うための馬はまた違う特徴があるのでしょうね。(農耕馬(?)のペルシュロンとか、蹄あたりがフサフサでが大きい馬はまた、かわいいんだよなあ)
ラクシュを手に入れて、試乗してみて心が昂ぶり、そして大事な大事な愛馬を守るために香草を焚いて守ろうとするところは、現代人が新しいバイクや車にを手に入れ、乗り回してワクワクしたり、ひまさえあれば眺めたり磨いたりするのに通じているかもしれません。

(来週はお出かけするため更新お休みです。ネタが集まるとよいのですが・・)

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10.ロスタムとその馬、ラクシュ
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■登場人物
ザール:ザボレスタン領主。生まれつきの白髪。ロスタムの父。Zal
ロスタム:ザールの息子。生まれたときから大きかった。Rustam / ルスタム 
ラクシュ:ロスタムの馬。Rakhsh

アフラシヤブ:敵方トゥランの指揮官。王子。

■概要
イランのシャー、ガルシャスプの没後、空位となったのを好機とみて、再びトゥランが侵攻しようとしていました。防衛戦の要となるザボレスタンの領主ザールは、高齢のために息子ロスタムに後を継がせようと考え、彼の考えを聞きます。
そしてまた彼に必要な馬を、ザボレスタン中から集めてきて探すことにします。
ロスタムはあまりに大きく力も強いので、通常の馬では不足ですが、ようやく、赤茶の色に斑模様のラクシュという飛び抜けて立派な子馬をみつけます。
そしてこの馬は、特別な神の加護により、ロスタムの今後の長い一生をずっと共にします。

■ものがたり

□□ザールの後継者ロスタム

ザールはロスタムに言いました。 
「お前はとても背が高くなり、糸杉のような体は、我々から頭一つ、抜きん出ている。しかしお前はまだ少年で、戦うには十分な年齢ではない。お前の心はまだ遊びと楽しみを求めており、唇にはまだ乳の匂いがする。獅子や強者との戦いにお前を送り込んでもいいものだろうか。どう思うかね。」
ロスタムはザールに答えました。 
「父上、覚えておいででしょうか、私が獰猛な象を倒し、またシパンド山でも蛮族を退治したことを。
今、アフラシヤブに怖じ気づくようでは、私は名声を失うでしょう。」

ザールは更に言いました。 
「勇敢な若者よ。白象とシパンド山のことは勿論素晴らしかった。しかしその戦いに簡単に勝ったので、私はむしろ恐れているのだ。アフラシヤブとその企みが私の眠りを奪っている。しかし彼のように勇猛な者と闘うためにお前を送ることができるだろうか。お前はまだ遊び盛りであり、今は宴を開き琴を鳴らし、酒を飲み、武勇伝を楽しむ時ではないだろうか。」

ロスタムは答えました。
「歓楽とワイン、饗宴と休息は、私には関係ありません。戦争や戦場での苦難も、神が私を助けてくれるなら、決して屈しません。今こそ戦うべき時であり、逃げるべき時ではありません。
ペルシャの地を守るトゥランに対抗するには、私にふさわしい、山のような大きさと重さを持つ馬が必要です。そして山のかけらのような巨大なメイスも。そのメイスで彼らの頭を砕くならば、誰も私に立ち向かう勇気がないでしょう。」

ザールは息子の言葉に感動し、天にものぼる心地でした。
そして父サームがマザンダランでの闘いで使った形見のメイスをロスタムに与えました。

 

□□ロスタム、ラクシュを選ぶ

ザールは自分の馬の群れをザヴォレスタン中から集め、またカボルからも集めました。
牧人は、それぞれの馬の烙印を呼ばわりながら、馬たちをロスタムの前に走らせました。
ロスタムは時折よさそうな馬を投げ縄でつかまえ、背を押さえてみましたが、どの馬も、ロスタムのあまりの強い力に、馬の腹が地面についてしまうのでした。

やがて、斑模様の馬の群れが通りかかり、その中に、足は短く俊足の灰色の雌馬がいました。獅子のような胸と鋭い短剣のような耳を持ち、肩が豊かで胴体が立派でした。
彼女の後ろには、彼女と同じくらい体高が高く、尻と胸も同じくらい広く、切れ長の黒い瞳、鹿毛の粕毛、漆黒の睾丸、鋼鉄のように固い蹄の子馬が来ました。 
その体型は美しく、斑模様はサフランの地に薔薇の花びらを散らしたようであり、目を見張るほどです。
彼は、夜、2里も先の黒い布の上の蟻の足を見分けることができる鋭い視力を持っていました。駱駝の体格で象のような強さを持ち、獅子のような気概を持っていました。

ロスタムは雌馬が通り過ぎるのを見届けると、象のようなこの子馬を見て、投げ縄を巻き、
「その子馬を群れから遠ざけよ」
と言いました。馬を運んできた老牧夫は、「閣下、他人の馬を奪ってはいけません」と止めました。
ロスタムは、その馬の尻に焼き印の跡がないことから、その馬の持ち主を尋ねました。
牧夫は言いました。 
「焼き印はないのです。でもこの馬にはたくさんの云われがあり、”ロスタムのラクシュ(雷)”と呼ばれているのです。3年前から鞍を付けて、多くの貴族が彼を選ぼうとしましたが、彼の母馬は騎手の投げ縄を見るたびに、獅子のように襲いかかったのです。」

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●ロスタムに説明する老牧夫 109r

 

ロスタムは王家の投げ縄を振りかざし、素早く馬の頭をその縄で捕らえました。

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●ロスタム、ラクシュに投げ縄をかける 109r

 

母馬は怒れる獅子のように前に出てきて、まるで彼の頭を噛み切ろうとするかのようでした。しかし、ロスタムは野獣のように咆哮し、その声が雌馬の足を止めました。
そして、その肩の部分に一発の衝撃を与えて、彼女を地面に叩きつけました。
彼女はよろめき、またよじ登り、向きを変えて、他の群れに合流するために駆け出しました。
ロスタムは縄を締めて子馬を自分の方に引き寄せ、英雄の力を込めて子馬の背中を押してみましたが、背中はびくともせず、まるで子馬がロスタムの手に気づかないかのようでした。
ロスタムは自分に言い聞かせるように言いました。
「この馬が私の馬だ。これで仕事を始めることができる。鎧、兜、棍棒の重さと、私の巨体に耐えられるだろう。」
彼は風のように素早く馬に乗り、赤毛の馬は彼と共に疾走しました。

彼は牧夫に尋ねました。
「この暴れん坊の値段を知っている者はいるか。」
牧夫は答えました。 
「あなたがロスタムなら、この馬は閣下のものです。この馬の値段はイランの平原全てに値します。この背に乗ってイランを救って下さい。」
ロスタムは珊瑚の唇で微笑み、「神の行いに幸いあれ」と感謝しました。

彼はラクシュに鞍を乗せ、武具・武器も全てつけて試乗してみました。馬の強さと速さに彼の闘志も燃え上がり、目が眩むほどでした。
ロスタムは、この大切な馬のため、毎晩、魔除けのために野のヘンルーダを彼の周囲で燃やしました。
どこから見ても、ラクシュは魔法の生き物のように見え、戦いでは機敏で、口が柔らかく、泡が飛び散り、腰はたくましく大きく、利口で、歩調が整っていました。 

ラクシュとその立派な乗り手は、ザールの心を蘇らせ、春の喜びをもたらしました。
ザールは宝物庫の扉を開き、今日も明日も気にせず、金貨を配りました。

 

 

■シャー・タフマスプ本の細密画

サムネイル ページ番号 画のタイトル※ タイトル和訳 所蔵館と請求番号 画像リンク先 備考 Image may be NSFW.
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109 RECTO  Rustam lassos Rakhsh  ロスタム、ラクシュを投げ縄で捕らえる  The Museum of Fine Arts, Houston, Texas, United States, LTS1995.2.47 flickr / 1


■他の写本の細密画

サムネイル ページ番号 画のタイトル タイトル和訳 所蔵館と請求番号 画像リンク先 備考 Image may be NSFW.
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f025v
85 RECTO  Rustam catching Rakhsh ロスタム、ラクシュを捕まえる Add MS 18188 (Oriental Manuscripts, British Library) f85r Copied in 891/1486

(あとで追加・年代順に表にする予定)
・プリンストンシャーナーメRustam Chooses His Horse, Rakhsh, folio 54a from the Peck Shahnama, 1589-1590
・Persian MS 910(マンチェスター)ノウザル処刑シーンもあり
https://www.digitalcollections.manchester.ac.uk/view/MS-PERSIAN-00910/139
・ニューヨーク州立https://digitalcollections.nypl.org/items/5e66b3e8-b63f-d471-e040-e00a180654d7
・Diez A fol. 1(ベルリン州立図書館)(カタログ・挿絵リスト(リンク付き)
https://digital.staatsbibliothek-berlin.de/werkansicht/?PPN=PPN671782010&PHYSID=PHYS_0183

■細密画解説(本や所蔵美術館の解説より適宜抜粋)
●109 RECTO  Rustam lassos Rakhsh  ロスタム、ラクシュを投げ縄で捕らえる 
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。 
ロスタムが自分の馬を探して捕まえる、という短いシーンですが、この馬とは一生のパートナーになります。
この絵でのロスタムは、羽つきの冠(兜)で、頬はすべすべとして丸く若い雰囲気が出ています。
父ザールの結婚がマヌチフル時代。ノウザル即位直前または直後に生まれたとすると、治世がそれぞれ。ノウザル7年、ザヴ5年、ガルシャスプ9年なので、21歳プラスマイナス、くらい。
ん、唇に乳の匂いが、という程は若くないですね。(14~16歳くらいかと勝手に思ってました)


■参考情報
●馬の毛色について
bay roan horse (栗粕毛)の画像
bay:鹿毛。明るめ~ダークな栗色、尻尾やたてがみ、足先は黒くなる。
roan:粕毛。いわゆるこまかいブチ。
piebald:ホルスタイン牛のような大柄の黒白二色(茶白の場合はSkewbald。両方を総称してcoloured(米語だとまたちょっと違う))

馬の各部の名称

●ヘンルーダについて
The Wild Rue
by Bess Allen Donaldson(1938)
イランでの邪視よけとヘンルーダについての本
全文英語で閲覧可。(IMDB)
ヘンルーダは、古代ギリシアプリニウス以来、視力の回復と保持等に効果があるとされる苦い薬草。
シェイクスピアの戯曲にも出てきます。
(視力に関連しているのかどうか)イランでは邪視除けのためいろいろな場面でその種子を焚いたりする模様です。


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